アイ [小説]
右目の調子がおかしかった。
最近、手入れを怠っていたせいかもしれない。
もしくは一昨日、勢いあまって床に落としてしまったのが原因だろうか。
とにかく、思い当たる節には困らない。
洗面所で顔を洗う際に確かめてみたら、やはり表面がかすかに曇っているように見える。
仕方ない、と俺は服を着替えると、近所にあたらしく出来たばかりの専門店に入っていった。
俺はしばらく品定めをしていたが、ふと気に入ったのを一つ見つけ足を止めた。
「この、アングロサクソンのブルーは何年ものですか?」
なかなかレアな逸品だった。
少々値は張るが、せっかくだしいつもとは違うのにしてみようか。
試着ができないかと店員に聞いてみると、快く承諾の返事。
遠慮なく右目にはめてみると、装着感も悪くない。
「じゃ、これ下さい」
レジで金を払う。
はずすのも面倒なので、着けたまま店を出た。
気のせいかもしれないが、新しいものはやっぱり気持ちがいい。
不意に見上げた、青い空。
見慣れたはずのそれもまた、心なしかいつもより青く感じられた。
2015-05-30 00:14
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