紫陽花 [小説]
この時の、雨粒一つさえ見逃さないように、私は五感を研ぎ澄ます。
あなたの横を歩きながら、永遠に時が止まればいいのに…と。
ふと、立ち止まる。
目の前には雨に濡れ、雫をたっぷり抱えた花。
「奥さん、よかったら持ってって」
あなたは、私の代わりに愛想よく紫陽花を受け取る。
「奥さん、だって」
ちょっと、冗談ぽく言ってみたものの、あなたは短く笑っただけ。
かわりに、つないだ手を強く握った。
紫陽花には毒がある。
そう、聞いた事を一人残った部屋で思い出す。
花びらを、そっと一枚ちぎりとり、小豆と一緒にゼリーに入れたら綺麗だろうなぁと眺める。
気がつくと雨は止み、青空が広がっていた
2015-05-31 12:56
nice!(0)
コメント(0)
トラックバック(0)
コメント 0