パラシュート [小説]
墜ちる、墜ちる、墜ちる。
風を切って、真っ逆さまに落下していく。
両手を大きく広げて、全身で風を感じる。
地上から見たら、黒い、大きな鳥のように見えるだろうか。
もしそうだったら、どんなに素敵だろう。
鳥になるのが子供の頃からの夢だった。
一緒に墜ちたあの子が傍にいる。
視線を合わせてニッと笑う。
手を繋ぐ。
あの子は言った。
「どこまでもいこう」
「でも、このまま行ってしまったら、地面にぶつかってしまうよ」
私は笑いながら言う。
そう、私たちは所詮羽の無い人間でしか無い。
もう少し墜ちたら、パラシュートを広げて着地する。
これはそういう遊びなのだ。
あの子は笑って言った。
「大丈夫だよ、私たちは魚になるんだから」
言うなりあの子は私の手を離した。
そして、角度を変えて私から遠ざかった。
私は言葉の意味を汲み取ることが出来ないまま、あの子の姿を目で追った。
と、離れたあの子の向こう側に雲と、地上が見えた。
私は理解した。
空は青かった。
そして、地上も青かった。
それはまるで海底に沈んだ町のような青さだった。
雲は、その海の上に浮かんでいるように見えた。
私たちは、どこまでも、沈んでいくのか。
気が付くとあの子の姿は見えなくなってしまっていた。
もしかすると、魚になってどこかに泳いで行ってしまったのかもしれない。
2015-06-03 02:55
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