完全犯罪 [小説]
銀行強盗が発生した。
その男は顔にマスクもせず、堂々と防犯カメラに顔を晒しながら強盗を働いた。
当然の事ながら、すぐさま似顔絵が作られ日本各地の交番に出回った。
誰もがすぐに捕まるであろう、と考えていた。
「ふう・・・」
あるアパートの一室。
傍に大量の金を詰め込んだままのカバンを置きながら、男はため息を憑いて、テレビをぼんやりと眺める。
映し出されているのは自分の過去の顔、銀行強盗を働いた人物の顔。
ニュースではもうひっきりなしで流れていた。
「ふん。まあこう流れているとかえって好都合だ。人々には嫌でも『この顔』がインプットしてくれるからな」
そう呟きながら、テーブルに置かれていた手鏡を手に取り、自分の顔を観察して見る。
映し出されているのは、テレビで流れている顔とは全く別人の物。
しかし銀行強盗を働いた男の顔でもある。
今は。
「まあ、警察も俺の事は捕まえられないだろう。生まれ持った特殊な能力。自分の顔を好きな様に変化させる事が出来る能力。
これを知られない限り、俺は絶対に捕まらない」
手鏡を置き、男はチャンネルを変えて、何処か強盗について以外のニュースがやっていないかを探す。
そしてあるチャンネルで止めた。
そのチャンネルでは、国会中継を行っていた。
男はしばらくそれを、暇つぶしにぼんやりと眺めていたが、やがてある事を閃いた。
それは男にとっては面白いアイデアであった。
また銀行強盗が発生した。
その銀行強盗の犯人は、マスクすら付けておらず、防犯カメラにも銀行員にもばっちりと顔を見られていた。
そしてその似顔絵がすぐさま作られ、日本各地の交番に貼り出された。
そしてマスメディアもその犯人の顔を伝えた。
事細かく。
だが、その似顔絵を見た人々は決まって、面白さと奇妙さが混じった表情になる。
何故なら、その作られた似顔絵は、どう見ても現職の総理大臣と全く同じ顔であるからだ。
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