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ドラゴン [小説]


 

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眠れぬ夜、僕は部屋の中で竜を見た。


竜は窓をくぐって暗闇の外に出た。


竜にとってガラスは水の膜のようでしかない。


音もなく暗闇に出た竜は一声、こう、と啼いた。


ほとんど吐息のそれは僕にしか聞こえない。


竜は月を見上げた。

雲でけぶったそれは丸いのかそうでないのか判別がつかないが、竜は確かにそれを見てまたこう、と啼く。

すると竜の周りの景色が色褪せ始めた。



けぶっていく。


雲に隠れた月のように。

夜飛ぶ鳥は空に溶け、電信柱は闇に霞み、家々は朽ちていくかのように夜色に染まっていった。


竜は燃えるまなこで月だけを見つめている。


次の瞬間、世界は本当の闇に閉ざされた。


見てごらん。


竜の口に咥えられたそれを、こんどは僕が手の中に収める。


丸い焦げ茶けた色のくるみボタン。


誰かが落としたものだろうか。

僕は髪の長い少女がひとつだけボタンの取れたコートを、少し寂しげに見つめている光景を思い浮かべた。


月の裏側に隠れていたものだ。


竜は静かに言う。

月は皆が見ているものなのに、誰も探し物がそこにあることに気がつかないし、そこにあるとも考えない。

不思議なことだ。


竜はそう言って再び僕の部屋へ戻り、ベッドの毛布をめくってマットに横たわった。

僕は相変わらず手のひらの中でくるみボタンを転がしていた。


今日はとても眠れそうにない。


これから見る夢がどんなものか、考えただけで密やかに興奮してしまうから。


竜は僕だったんだ。






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