パスワード [小説]
「IDとパスワードって、多くなってきて忘れたりすることない?」
夫は初めはキョトンとしていたけれど、徐々に身に覚えがあるという顔になってきて、最終的にポンと両手をうち合せた。
「あるある。この前も久しぶりに入ろうとしたページで苦労したよ。どれがどのページのパスワードだったのか、ゴッチャになって分からなくなるんだ」
「パスワードをまとめて管理できるソフトがあるけど、ダウンロードしておく?」
「おお、ちょうどそういうソフトが欲しいと思っていたんだよ」
わたしは夫のパソコンにソフトをインストールしてやり、大雑把に使い方を説明した。
「あ、先に言っておくけど、ソフトそれ自体を開くパスワードは自分で覚えておく必要があるからね。そうしないと、オートロックの部屋に鍵を置き忘れるようなことになっちゃうから」
「それくらいは流石に分かっているよ」
数日後、わたしは夫の勤務中にパソコンを開いて例のソフトを起動させた。
パスワードを要求されたが、夫の性格を考えて適当なキーワードを入れていく。
忘れたら困るものこそ、安易なパスワードが用いられるというのは本当だった。
早くも三つ目でログインに成功した。
わたしはたった一つのパスワードで、夫の全てのパスワードを手に入れたのだ。
2015-06-21 11:16
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