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パスワード [小説]


 

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「IDとパスワードって、多くなってきて忘れたりすることない?」
 


夫は初めはキョトンとしていたけれど、徐々に身に覚えがあるという顔になってきて、最終的にポンと両手をうち合せた。



「あるある。この前も久しぶりに入ろうとしたページで苦労したよ。どれがどのページのパスワードだったのか、ゴッチャになって分からなくなるんだ」



「パスワードをまとめて管理できるソフトがあるけど、ダウンロードしておく?」


「おお、ちょうどそういうソフトが欲しいと思っていたんだよ」
 

わたしは夫のパソコンにソフトをインストールしてやり、大雑把に使い方を説明した。



「あ、先に言っておくけど、ソフトそれ自体を開くパスワードは自分で覚えておく必要があるからね。そうしないと、オートロックの部屋に鍵を置き忘れるようなことになっちゃうから」



「それくらいは流石に分かっているよ」
 

数日後、わたしは夫の勤務中にパソコンを開いて例のソフトを起動させた。
 


パスワードを要求されたが、夫の性格を考えて適当なキーワードを入れていく。
 

忘れたら困るものこそ、安易なパスワードが用いられるというのは本当だった。
 

早くも三つ目でログインに成功した。
 


わたしはたった一つのパスワードで、夫の全てのパスワードを手に入れたのだ。






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