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コーヒーと思惑 [小説]


 

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客のまばらなカフェに入り、僕はカウンターで店員を待った。


奥で店員である若い女が電話している。
 

その日は不思議と、不機嫌にはならなかった。
 

こちらに気付き、電話を切って足早に僕に近づいた彼女の目元が微かに濡れていた。


見られたと悟った彼女は綺麗な指先で拭った。



「大丈夫ですか」
 

潤んだ瞳を見つめて僕は言った。



「ええ、平気です」
 

無理に微笑んで彼女は言った。


コーヒーを注文した。


彼女はコーヒーを洒落た紙コップに注いで差し出した。


一口飲む。


今日のはとくべつ苦い。


傍にあった透明のボトルには砂糖が詰まっている。

僕は手に取る。
 

突然ボトルの蓋がはずれて、大量の砂糖が熱いコーヒーに飲まれていった。
 

大袈裟に驚いて見せた。


カフェの女が少し笑って新しいコーヒーを淹れようとした。


笑顔はやっぱり素敵だった。
 

だから僕はこのコーヒーでいいと笑顔で言う。


今日のはとくべつ甘くなった。


それが甘くなることを僕は知っていた。
 

彼女がコーヒーを注いでいる間、ボトルの蓋を緩めたのは僕だったから。






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