ホームレスと大金 [小説]
「えらい物を拾ってしまった・・・」
彼は、2千万円の札束を小さなテーブルに広げて頭を抱えた。
彼はホームレスだ。
会社をリストラされ、妻子にも縁を切られていた。
橋の下にビニールシトで覆った住まいを作り、ゴミ置き場から生活に必要な物を運び込んだ。
鍋や小型ラジオだってある。
食べ物は、コンビニやレストランから出た廃棄物から何とか調達出来た。
アルミ缶などをかき集めると、多少の金にもなった。
少しばかり家の中が煙いのを我慢すれば、それなりに快適だった。
その日の早朝、彼はゴミ置き場をあさった。
紙袋が目に入った。
中をあらためると、新聞紙に包まれた札束が出てきた。
慌てて周囲を窺ったが、人の気配はなかった。
彼は急いでそれを持ち帰った。
新聞紙に包んだ大金を紙袋に入れて持ち歩くわけがない。
出所を明らかに出来ない金を、持ち主が始末に困って捨てたのだ。
彼はそんな風に解釈した。
これだけの金があれば、立派なアパートに住み、フカフカなフトンにも寝られる。
まともな職にありつけるチャンスだってある。
人並みの社会人として生活出来るのだ。
しかし、と彼は思った。
背広を着れば、また会社の規則や社会の決め事に縛られることになる。
自分は、もうそのことに妥協出来ないのではないか?
今の生活は貧乏でも自由がある。
彼は考え込んだ。
翌日早朝、彼は金が入った紙袋をもとのゴミ置き場に戻したのだった。
2015-06-26 04:23
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