役所仕事 [小説]
一日の終わりには、あの人の所へ印をもらいに行く。
「今晩は」
「今晩は、いらっしゃい」
と私たちはいつもの挨拶を交わす。
あの人は「お茶はいかが?」と勧めてくれる。
私が眠れなくなるといけないからと、それは決まって焙じたものだ。
少し世間話などをした後で、私たちは姿勢を正し、小さなテーブルを挟んで型通りのやり取りを始める。
「私は、今日も一日、確かに生きて存在してたんでしょうか?」
申し訳ないような気持ちで、私が気まずい質問を切り出す。
「ええ、もちろん」
と、あの人はきっと何気なくそう言って、私の手帳の上に顔をふせ。
力の限りを込めて
念入りに
慎重に
でも向きなんかにはあまり頓着なく、
しっかりと今日の印を押してくれる。
「はい、おしまい」
あの人は顔を上げ、無邪気な表情で手帳を差し出し。
「昨日も一昨日も今日も、あなたは確かにいましたよ。そして明日も明後日も、それから先もずっと、ちゃんと生きて存在していくんです」
2015-06-26 04:29
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