自分探し [小説]
私はちょっと前まで同棲していた。
しかし彼は突然出て行くと言い出した。
「自分探しの旅に出るんだ」
私の頭の中に「自分探しの旅」という言葉が反響した。
「自分探しの旅?何を言っているんだい?君はそこにいるじゃないか?自分を探すなんて、何を馬鹿なことを、、」
「違うんだ、『本当の自分』を探すんだ」
「本当の自分?」
「世界には自分とそっくりな人間が三人いるんだ。僕はその人と会って話してみて、三人のうち誰が本当の自分なのか確かめたいんだ」
その言葉を聞いて私は合点して、彼を見送った。
しかし彼を見送ってから私は思った。
自分とそっくりな人間ということは、見た目が似ているというだけで赤の他人じゃないか!
DNAの構造は4種類の塩基の組み合わせからできていて、その組み合わせは無数にあるがしかし有限だ。
世界に60億人も人間がいれば、DNA配列が似通って、自分とそっくりな人間が3人くらいいてもおかしくはない。
しかしいくらDNA配列が似ているといっても、あるいはまったく同じDNA配列だったとしても、それぞれ別の人間である。
同じ人間ではない。
その中の誰が「本当の自分」か確かめるなんて、、
3人ともそれぞれが「本当の自分」じゃないか!
そう気づいた私は急いで彼を探しに行った。
「彼」というのは私の中の「もう一人の自分」だった。
つまり、結局今私は「自分探しの旅」をしているのである。。
2015-07-03 03:17
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