矢印 [小説]
僕が道を歩いていると、足元に矢印があった。
ヒマだったので、僕はその矢印の指すほうへ歩いてみることにした。
30メートルほど歩くと、また矢印があった。
僕は矢印の指すほうへ歩いた。
次の交差点では右へ。
次の角では左へ。
矢印は電柱や街灯、フェンスやブロック塀や店の看板。
至る所に貼られていた。
そして僕は、矢印の指すほうへひたすら歩いた。
道が二股に分かれているところで僕は立ち止まった。
いくら見回しても矢印がない。
しばらく立ち尽くしていると、後ろからバイクの音が聞こえた。
僕は少し道の端によけた。
矢印マークの付いたヘルメットが、僕を追い越していった。
僕はまた、矢印の指すほうへ歩いた。
右へ。
左へ。
次の矢印は、民家の玄関扉に向かって指していた。
僕は扉を開けた。
「ただいま」
「あら、遅かったのね。肉まん、あるけど食べる?」
「食べる」
2015-07-05 03:53
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