白い部屋 [小説]
あなたは今、真四角の部屋に居る。
右も左も白い壁だ。
あなたの後ろにはドアがある。
あなたの右後ろ側だ。
そのドアは木造で、ドアノブを回して開けるタイプのもの。
あなたは、そのドアを押して入ってきた。
あなたは今、椅子に座っている。
右と左の壁には何も無い。
後ろの壁にはドアがある。
前の壁には三つの丸いボタンが並んでいる。
どのボタンも形は同じで、五百円玉より少し大きい位のものだ。
白い壁の真中に、銀色に光る長方形の金属板がはめ込まれていて、それらのボタンは横並びになっている。
なんのボタンかは、あなたは全く知らない。
あなたはその前の壁に近く座っている。
三つのボタンはそれぞれ色も雰囲気も違っていて、あなたはそれを見つめている。
まず、あなたから見て左端のボタンは青だ。
随分と磨り減って、指の当たる部分は色が剥げてしまっている。
かなりの人がこのボタンを押したことが伺える。
何故なら、その青いボタンの下には、白い小さなプレートがついていて、そこにはゴシック体で「押せ」と書いてあるからだ。
そして次に真中のボタン。
これは黄色いボタンだ。
青のボタンと違って、特に磨り減っている様子もなければ、全く誰も押して無いというわけでもなさそうだ。
中心に少し黒ずんだ、手垢のような汚れが見える。
そのボタンの下にも同じく白い小さなプレートがついていて、そこにはやはり同じくゴシック体で「押」とだけ書かれている。
しかし、その文字の横に、明らかに人の手書きだと思われる、しかもいたずら書き的な文字で「引」とも書かれている。
更にあなたから見て右端のボタン。
これは赤い色をしている。
他二つとは違って、とても綺麗で、人が触れた形跡は無い。
それもその筈、そのボタンの下にある小さなプレートには「押すな」と書いてあるからだ。
危険を知らせる色にも赤は最適だ、とあなたは思った。
あなたは今、真四角の部屋で、左右を壁に挟まれ、後ろに木のドアを感じながら、目の前に並ぶ三つのボタンを見ている。
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