叔父さんは泥棒 [小説]
昔、わたしのおじさんは泥棒だった。
国内でも仕事をしていたようだが、よく外国へ行っていた。
おじさんのパスポートはスタンプだらけだった。
「世界の美しいものをたくさん、たくさん盗みたいんだ。そうしてみんなにばら撒くんだ。」
おじさんは笑いながら、こっそりとわたしだけに夢を語った。
「ねずみ小僧じろきちのように?」
わたしはいつか聞いた記憶がある。
「ねずみ小僧? ああ、そんな感じかなぁ。なんか違う気もするけど」
そんな答えを返してくれた気がする。
初めて、盗んだ宝物を見せてくれたのはいつだっただろう。
わたしが中学のときか。
長いこと、おじさんは盗んだものを見せてはくれなかった。
みんなにばら撒くのさ、と言っていたのに。
だから、わたしはおじさんの泥棒としての詳しい区分、つまりどのようなものを盗んでいるのかを知らなかった。
おじさんが盗んだものは、いろいろだった。
頑丈な白い紙箱の中に、何枚も、何枚も戦利品の写真が入っていた。
人、人々、校庭、滑り台、ステンドグラス、テーブル、コーヒーカップ、猫、ビル、ビルの上の旗、草、木、森、砂、海と空。
紙箱はみっつあった。
その頃には、わたしにも
ある程度の外国についての知識はついていたが、写真はやはり鮮烈だった。
その中に、ほとんど真っ黒いだけの写真を見つけた。
四隅のひとつが白くなっている。
「失敗?」
ビールを飲んで少し顔の赤くなっていたおじさんに言うと、おじさんは写真を見て、わたしにだけ聞こえる小声で答えた。
「それは宇宙の端っこ」
一瞬あっけにとられた後でわたしはにやりと笑い、「ちょうだい」と言った。
おじさんは一度目線をそらせ、戻し、「ああ、いいよ」と偉そうな声で、でも顔はニヤリとさせて言った。
その時から、わたしにとって、おじさんは探検家ということになっている。
最近、わたしは
「宇宙の端っこ」を眺める度に、ついニヤリとしてしまう。
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