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パスワード [小説]

 

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「IDとパスワードって、多くなってきて忘れたりすることない?」
 


夫は初めはキョトンとしていたけれど、徐々に身に覚えがあるという顔になってきて、最終的にポンと両手をうち合せた。



「あるある。この前も久しぶりに入ろうとしたページで苦労したよ。どれがどのページのパスワードだったのか、ゴッチャになって分からなくなるんだ」



「パスワードをまとめて管理できるソフトがあるけど、ダウンロードしておく?」


「おお、ちょうどそういうソフトが欲しいと思っていたんだよ」
 

わたしは夫のパソコンにソフトをインストールしてやり、大雑把に使い方を説明した。



「あ、先に言っておくけど、ソフトそれ自体を開くパスワードは自分で覚えておく必要があるからね。そうしないと、オートロックの部屋に鍵を置き忘れるようなことになっちゃうから」



「それくらいは流石に分かっているよ」
 

数日後、わたしは夫の勤務中にパソコンを開いて例のソフトを起動させた。
 


パスワードを要求されたが、夫の性格を考えて適当なキーワードを入れていく。
 

忘れたら困るものこそ、安易なパスワードが用いられるというのは本当だった。
 

早くも三つ目でログインに成功した。
 


わたしはたった一つのパスワードで、夫の全てのパスワードを手に入れたのだ。


ザクロ [小説]

 

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ザクロ


赤く熟れたる実に想う


その割れ口に赤き玉


緑にそよぐ葉の陰に


隠れてひそむはずかしさ


やさしき白き手のひらで


その実を取りてながむとき


風は冷たくそよそよと


その黒髪に秋深く


闇黒々とせまるとも


白き雲なり湧く空の


夕月青く暮れ沈み


樹の影遠く去りにけり


タグ:ザクロ

特別なレストラン [小説]

 

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男は、とあるレストランの前に立って居た。


何やらここのレストランは特別なんだと言う噂を聞いた。



男はどんな美味しい食べ物が出るのか、また何が特別なのかに興味がありここへ来た。



レストランの外装は、いかにも高級なレストランという感じだった。



しかし男は引け目を感じてはなかった。


「金なら沢山ある。大丈夫だ。」

そう思いレストランに入った。


入った所に受付があり、受付の男が言う。


「いらっしゃいませ。当店は予約など一切しておりません。ただし当店に入る為には特別でなければ入る事が出来ません。お客様は特別ですか?」


「特別?オレが特別かどうかか?特別じゃないと入れないのか?」



「はい。お客様自身が特別かどうか分かりさえすれば入れます。当店は特別ですから。」



「金ならあるぞ?それでも入れないのか?」



「はい。お金は必要ありません。特別であればどなた様も無料で食事が出来ます。」


男は驚いた。



こんな高級そうな所で特別である事を証明すれば無料で食べれるのか!と。


逆に男は困った。


男は特別な物なんてなかったからだ。


そこで男はその場で逆立ちしたり、変な顔をしたりした。


当然だが、そんな事では入れるハズがなかった。


男はどうしても入りたくなった。


一体、中にはどんな特別が奴がいるのか気になってしょうがなかった。



思わず受付の男に聞いた。



「中に入ってる奴は当然特別なんだな?」


「はい。中に入ってるお客様から従業員も全て特別です。」



「どんな奴がいる?」



「お客様では一国の大統領、一流のスポーツ選手、大物小説家、人気歌手、若手女優などです。従業員も勿論、三ッ星シェフや一流ウェイターがいます」


特別とは、やはりそういう事か。


なら尚更オレには入れない訳か…



じゃあ…


「じゃあアンタも特別なんだな?」



「はい。私も特別でございます。」


一見普通に見えるこの中年男性が特別…。



何が特別なんだ?学歴?育ち?人?

なら特別じゃないオレはなんだ?普通?普通ってなんだ?



…オレは、オレだ、そうだ。



「オレは、オレだ!他にオレなんていない…!オレである事自体が特別だ!!どうだ!」



「…よろしいでしょう。あなたも特別です。どうぞ中へ。」

と言われレストランの中を案内された。



席に座り、受付の男は言う。


「当店にはメニューがございません。お客様にあった料理をお出ししています。少々お待ち下さいませ。」

男はワクワクした。

やっと入れたのだ。

例え、どんな物が出て来ても一流料理を食べれのだ、しかも無料で。


そうこう考えてる内に料理が来た。


そこには。


「なんだコレは?絵に描いたステーキじゃないか?ふざけてないで料理を出せ」


ウェイターは言う。



「これがお客様にあった料理です。どう食べるかは、お客様の自由です。勿論食べないのもいいです。ただし、その場合は自分は特別じゃないと認めたとして 罰があります。では、どうぞ召し上がれ」


「ば、罰ってなんだ!?」



「それは特別な罰です。そして罰に関しての質問は一切お答えできせんのでご了承下さい。」



男はどうするか悩んだ…。


多少の後悔をしながら…。


消極的人間を考察する [小説]

 

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皆さんは”消極的な人”と言われて、誰を思い浮かべるだろう?

家族、友達、クラスメート、仕事場の同僚、どこにでも一人ぐらいはいるだろう。


周りの人はその人をみて

『おとなしい』『自分の意見を言わない』『恥ずかしがり屋』

など、さまざまなことを思うだろう。


そして私が思ったことは。



『その人が消極的なのは単におとなしいからというわけではなく、”周りの平均的な考えと合わせよう”としているからではないのか?』

ということだ。



皆さんはこんな体験をしたことはないだろうか。



『友達と買い物にいって、お揃いのキーホルダーを買う時、私はピンクが欲しかったけど、皆が「ブルーにしよう」と言って、言いだせなかった。』


似たようなことならたぶんあると思う。


この場合、わがままをいったら雰囲気が悪くなる”と思うだろう。


だが言い出さなかったのはそれだけではなく

『平均的な考えに合わせよう』としたからではないのか。


人間は一貫性を求める生き物だと聞いたことがある。

だからこそ周りとは違う意見だった時、「普通はこうでしょ?」と反感を買うケースがある、

人間はそれをもう学習しているのだ。


世間一般で見られる”消極的な人”は、それを敏感に感じ取り、平均的な考えに合わせようとして、

自分の意見をあまり言わないようにしているのではないのだろうか。


事実かどうかはわからない、だか、これは私が確かに感じたことなのだ。


タグ:消極 考察 小説

おじさんとラジオ [小説]

 

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僕のおじさんはいつもラジオをいじってる


朝から晩までチューンを合わせる


ザーザーピーピー うるさい


おじさんは言う


「違うんだよ ぜんぜん このラジオは 特別だ」



僕が、そのラジオのどこが特別なのか訊くとおじさんは、感度が特別なのだと言う。



「コイツは、特殊な電磁波をキャッチ出来るんだ。時間軸を超えてやってくる電磁波までもな。」


おじさんはそう言って、手先に集中する。


「俺が作ったラジオだ。23から始めて今年で60になる」



「人には色んなアンテナが必要なんだ。
俺にも、アンタにも。そのために俺はコレを作ってきた。・・・あのひとの ほんとうを知るために。」


おじさんの手はダイヤルを回しつづける


「やった!ついにチューンが合ったぞ 37年前の午後3時15分。あとは彼女の脳波に合わせれば聴こえるはずだ!あのときの彼女の心の声が!」


でも ラジオは相変わらず ザーザービリビリいってる


ぜんぜん なんにも聴こえない

・・・なぜだ?こんなはずではない!

俺の37年は無駄だったのか?


僕は、地面に倒れ込んだおじさんを抱えて起こしてやろうとした


そのときだった

ラジオの雑音は なにやらモゴモゴし始めて

意味をもった微かな音声なって

おじさんの37年間を駆け抜けた


「・・・アナタ ナンテ キライ・・・」


無口な妻 [小説]

 

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「ねえ、子供できてたらどうする?」


またか。


彼女がこの問いを繰り返すのは、何度目だろう?



僕は自動車を走らせながら、こっそりため息をついた。


ドライブの帰り道。

山間の道はくねくねと折れ曲がり、揺れすぎないように、慎重にハンドルを切る。


彼女が神経質だから。


「今日はまだ眠たくないのかい?」
 

彼女が寝たら僕の好きな音楽をかけてもよいルールになっている。


彼女ときたら、自分はハードロックなんかを平気でかけるくせに、僕のクラシックは無言でスイッチを切るのだ。


大きな山は、薄くかげった空のシルエットになって巨大に迫りくる。

自動車のライトに照らされた道はいつもと
おんなじに続いている。


はるかかなたから、点滅した表示灯。


トンネルだ。


あ、スピード出しすぎ?おっとっと。


吸っていたタバコを消すために、彼女の足元の灰皿を引き出すと、ちょっとハンドルがぶれて軽く車体が揺れる。


とたんに彼女が足を引っ込めた。

「まだ、子供できたって決まったわけじゃないから、タバコ吸っていいよね・・・」
 

彼女は無言。


まっすぐな道が青黒い空の下に続く。


しかし道はでこぼこで、ライトの影ができるところの前で慎重にブレーキをはずし、スプリングをきかせながら段差を通り過ぎる。


彼女は首をかるく振りながら、音楽にのっているようなので、僕は安心した。


「ねえ、貯金しないとねえ。」

と、彼女が言った。



この台詞も何度目だろう。


こう何度もドライブをしていてはお金はちっとも貯まらないよ・・と言おうとしてあきらめた。

いつもお金のつかい方でけんかになるから。



「そうだねえ。もうちょっと倹約していかないと」



僕はぶつぶつつぶやくように言った。



「ねえ、子供出来てたらどうする?」



またか。

しつこいなあ、こいつは。



僕は子供のいる生活を思い描いた。

楽しいだろうな、仕事から帰っても自分の時間はますますなくなりそうだろうけど。


楽しいだろうな・・・。


もう彼女は寝てしまったので、僕はジャンバーをかけてやり、またハンドルに集中する。



「寝てるときが一番かわいいなあ・・」


なぜか涙がにじみ出てきたが、僕は理解できなかった。


街が近づいてきて、すれ違う自動車が多くなった。


ライトがやけに眩しい。



「そうか、ライトが眩しいからか。」


僕は納得し、アクセルを踏み込む。


彼女は寝てしまったけれども、クラシックはかけないでおいてあげよう。



よく眠らせてあげよう。

  

☆ ☆ ☆


「あの人って仕事以外に何してるんですかねえ」
 

同僚が言った。

もう一人が答えた。


「奥さんが亡くなってから、夜な夜なドライブしてるらしいぜ。うわさだとマネキンにスピーカーを仕込んで、助手席に乗せてるって。一言二言は話すって・・・」


さみしい蛙 [小説]

 

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さみしいさみしいと泣く蛙が一匹おりました。


「この池には私一人しかいないのです。さみしいさみしい」


それを太陽とお月さまと、あとお星さまが見て言いました。



「私たちはお前をちゃんと見ているよ」


しかし、蛙は鳴きやみません。


「お前らは私だけを見ていてくれない。私だけを見ていてくれない」
 

それを聞いていた1匹のあめんぼうが言いました。



「僕も君とおんなじ池に住んでいるから、君だけをきちんと見ているよ」
 


しかし、蛙はそれを聞いて怒ります。


「お前はあめんぼうじゃないか。お前は私とは違うのだ。居ても居ないのと同じだ。」
 


偏屈ものの蛙は一人で泣きながらさみしく死にました。


タグ: カエル 小説

物書きの恋 [小説]

 

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彼はいつも昼近くなってベッドから出る。


急いで朝昼兼用の食事を済ませ、午後から近くのスポーツジムで汗を流す。


帰りにはスーパーに寄って食料の買出しをし、夜は読書したり小説を書いたりして過ごす。



これが彼の一日だ。



スーパーで買い物をする時、彼が通るレジは決まっている。


そこでは感じの良い女性が対応してくれるからだ。


彼はいつしか年上の彼女に引かれていった。

彼女と言葉を交わしたことはなかったが、彼女の姿を見た日は心が和んだ。
 

彼は、自分が書いた小説を彼女に読んでもらいたかった。
 

その日彼は、思い切って尋ねた。


「自分は小説を書いています。あなたの名前を使わせて欲しいんです」
 

彼女は一瞬怪訝な顔をしたが、やがて「美咲です」と答えた。



「母と同じ名前です!」


「それじゃ、きっと素敵な方なのね」
 

その夜、彼は早速机に向かって書き始めた。


スラスラとペンが進んだ。


作品が出来上がった日、それを彼女に手渡して早々に去った。
 

翌日彼は、恐る恐るレジの前に進んだ。


「とても素敵でした。私の名前を使って下さって嬉しいわ」
 

―――ヤッタゼ!
 

彼は胸の中で叫んだ。
 

彼は、メールアドレスを書いた紙切れをポケットから出して、素早く彼女の手に握らせた。


彼は、小説を書くのを止めて、彼女とのメール交換にのめり込んだ。


タグ:小説 物書き

アンケートと魔法のランプ [小説]

 

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アンケートに足を止めた。


少しだけ気になる広告を見つけたからだ。


アンケートに答えたら、「魔法のランプが当たる!」

なんだか、不思議な企画だった。


Q1からQ100まであるかなり長いアンケートだったが、

魔法のランプに興味を惹かれた僕は全てに回答し、その企画に参加した。


2週間後、宅配便で魔法のランプが届いた。


ワレモノ専用の箱だった。

僕は早速箱を開けた。

中にはウンザリするほどの発泡スチロールと一緒に金色のランプが入っていた。


擦ってみると、ランプの魔人が現れた。

立派なひげだった。



「私はランプの魔人だ。願い事を言え」


「お金が欲しいです」

即答した。



「よし分かった。じゃあこのアンケート用紙に必要事項を記入してポストに投函しろ。抽選で一名、願い事をかなえてやる」

分厚いアンケートを残して、魔人は消えてしまった。



僕はアンケートを拾い上げた。

Q1からQ665まであった。

めまいがした。


一ヶ月たっても何もなかったので、僕は抽選に漏れたみたいだった。


あのランプはカレーの入れ物として使っている。


友人も洒落てるねと言ってくれた。


今は「幸福のスプーン」が当たるアンケートを書いているところだ。


カメレオン [小説]

 

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僕の腕とカルテを交互に睨みながら、お医者さんは「うーむ」と唸った。



「なんとかなりますか、先生」僕は体中のそれを指す。


「今まではもう少し小さかったのに、この訳の分からない斑模様が、日に日に大きくなっているんです。」

お医者さんは、黙って首を横に振るだけだった。



僕はがっかりしながら病院を出て、コンビニへ行こうと とぼとぼ歩いた。



ペットボトルのお茶を買って、お金を渡す時の店員の顔。まるで、化け物を見るようだった。



コンビニに限ったことではない。

どこへ行っても、ジロジロ見られて落ち着かないのだ。



「僕は、ひっそりと生きていたいだけなのに」

呟いている途中に、ふと 僕の斑模様に、なにか見覚えがあるような気がしてきた。


そう、あれは確か街中の広場の、タイルの床だ。


人通りが少ない、あの広場の。


そこに行けば、なにか分かるかもしれない。

僕は広場へ急いだ。


人々の嫌悪の眼差しも気にならないくらいに、無我夢中で走った。

あともうすこし、すぐそこまで見えているというところで、ドンッと強い衝撃、宙をさまよう僕の体。

あんまり夢中だったから、車に轢かれたようだ。



地面に叩きつけられ、あまりの痛みにもがく僕。


奇しくも、広場の斑模様のタイルの上。


血は出ていないようだが、体が痛くてたまらない。


「だ、だれか」僕は、慌てて降りてきた車の運転手に助けを求めるが、運転手は不思議そうな顔をして首を傾げるばかりである。


「おかしいなあ、なにかぶつかったと思ったのに」

斑模様のタイルと完全に同化した僕を残して、車は走り抜けて行くのだった。


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