真っ赤な手帳 [小説]
トントンと響く包丁の音。
台所では可愛らしい妻が、夕食の準備をしていた。
「ねぇ、今日は何の日か覚えてる?」
料理を手にリビングに戻ってきた妻が、唐突に聞いてきた。
「えーっと、初めて二人でドライブに行った日はこないだだったし、なんだったかな?」
本当はすぐに答えなんて分かっていた。
妻の少しすねた顔が見たかっただけなのは内緒にしておこう。
「……あ、そうか。今日は君と初めてキスした日だ」
ぱっと妻の顔が明るくなる。
「ほら、見て見て」
妻が自分の手帳のカレンダーを見せてくれると、そこには数字につけられた赤い丸とともに、赤い文字で確かにそう書いてあった。
「明後日は初めて二人でつりに行った日だから、早く帰ってきてね。魚料理がんばっちゃうから」
そんな生活が続いた。。。
やがて
2年も経つ頃には、妻の手帳は隙間が無い程、真っ赤になっていた。
「ねぇ、今日は何の日か覚えてる?」
「覚えてるでしょ。。だって、記念日ですもの。。。」
毎日かかってくる妻からの電話は、決まってその言葉から始まる。
すぐに返答できたのは最初だけの話で、今では妻からの電話におびえる日々。
あの手帳さえなければ。。
あの、赤い手帳さえ。。。
2015-05-30 00:29
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