ポリスBOX [小説]
やっと見つけた交番に駆け込む。
「どういったご用件でしょうか?」
パソコン画面の警察官が機械的な声で聞いてくる。
「IDスティックをなくしてしまって……」
「何か身分を証明するものをお持ちでしょうか?」
彼は首を振る。
IDスティックとは、手のひらに収まるサイズの棒状の多機能モジュール。
身分証明書になるだけではなく、財布や鍵、電話の機能など
生活に必要な機能すべてがIDスティックに入っているのだ。
それ一つですべてのことが足りる以上、他のものなどもっているはずなどなかった。
「誰か、あなたの身元を確認できる人はいますか?」
彼は首を振る。
連絡を取ろうにも、今どき他人の連絡先を脳に刻み込んでいる人間などいない。
IDスティックにのみそれが記憶されているのだから、友人はもちろん、親にさえ連絡が取れなかった。
「身分を確認できないため、市民権なしと判断させて頂きます」
それだけいうと、ディスプレイの電源がぷちっと消える。
市民権がない以上、彼は『存在しない』と判断されてしまったのだ。
「おい、待ってくれよ!」
しかし彼が何を言っても、もはやディスプレイは何の反応も示さない。
黒い画面には、ただ彼の青白い顔だけが映されていた。
2015-05-30 00:24
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