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クレヨン [小説]


 

 

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なんて挑発的な12色のクレヨンたちだろう。


どのクレヨンも一筋縄ではいかない色ばかりだ。


例えばこのクレヨンなんかは,橙と茶を2:1で混ぜてこんがりと焼き上げたような色をしていて,さらに上質紙の上にのばすと今度は太陽の光に焙られ鈍い銀色を発し始めたじゃないか。


キャベツ色したクレヨンもある。


一本一本線を引くたびに黄色み掛かった色あいが濃く変化する。


最後の線を引き終わると同時にブチッと芋虫が潰れるような音がしてマスタード色の液体が飛び散った。

深みのある黒色のクレヨンはもうスタウトそのものだった。

最初は誰もがそう思う,しかしじっくりと腰を落ち着けて色塗りをしてみるべきかもしれない。

画用紙に展開され茶色にひろがっていく彼の本性は実は純正のアイリッシュ香を漂わせていたりするのだ。


庭石菖とからすのえんどうを混ぜて出来上がったというクレヨンはとんでもなく論理的だ。


「すべてのxについて,xが雑草ならば,私はxが恒等的に好きだ」だって。


いったい数学と草花の世界をまぜこぜにしてしまうようなクレヨンなんて初めて出会ったよ。



もっとも逆は必ずしも真ならず,だが。


なんの変哲もない肌色のクレヨン。


でもこの肌色はとても頼りなげに感じられた。



案の定簡単に一皮むけたと思ったら中からは残酷な緑色をした肉のような塊が姿を現した。


残りのクレヨンたちもそれぞれにむせ返るような濃厚な匂いをわき立たせながら,思い思いに鮮やかな色を発していた。


これらのクレヨンには手を付けるのがはばかられた。


いったん手を付けたが最後けっして後戻りできない,そんなクレヨンたちばかりなのだ。






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