カウンター [小説]
バックバーに並んだ無数のウイスキー・ボトル。
今日だけはトパーズのように古い輝きを放っているように見える。
喜びも悲しみも同じ表情で受け止めてきてくれたこのバーのカウンター。
ちょうど五年前の今日、恋人が変わり、私の細胞全てが変わったことを確実に覚えているのかも知れない。
けれども今ここにいる私は五つ年を重ねた、ただの女。
愛を奉仕と勘違いした、馬鹿な自分には安っぽい言い訳しか残っていなかった。
それすらも言い訳。
カウンターの向こうでは、馴染みのバーテンダーがシェーカーを振り始めた。
朝露のようなしずくを落としたショート・グラスを私に差し出し。
「五年前にも同じものを頼まれたんですよ」
と私に差し出した。
私はそれを口に含むと声を挙げて泣いた。
2015-06-01 19:52
nice!(0)
コメント(0)
トラックバック(0)
コメント 0