彼女の優しさ [小説]
「そこまでして、やらなくちゃいけない事なの?」
彼女の言葉はとても優しい。
僕はその言葉に溺れそうになるけど、どうしてもそうする訳にはいかない。
彼女の純粋な思いに甘えたいのは山々だけど、どうしてもやらなければならない事がある。
それは誰に強制されている訳でもない。
だけど今の僕にとって、何よりも大事なことだ。
彼女だってそれは解っていると思う。
それでも。
それでもやはり言わずにはいられないのだと思う。
僕はその気持に感謝する。
やめることは簡単で、その瞬間僕は楽になれる。
そして同時に大きなものを失ってしまう。
心の一部。
存在の理由。
大げさかもしれないけれど、特別な事じゃない。
何かを目指してしまった者なら、誰にでもあるものだ。
もし今この時に、君の言葉に全てを委ねてしまったとしたら。
僕は心の空洞に巨大な虚無を抱えたまま、いつまでも君の優しさを求めてしまうと思うんだ。
それはきっと近い将来、終わりのない絶望と変わらなくなってしまう。
だから今だけは、君の優しさを受け入れる事が出来ないんだ。
ごめんね、でもありがとう。
2015-06-06 10:32
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