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時間屋 [小説]


 

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8月31日。


夏休み最後の日であると同時に、毎年終わりきらない宿題の山を抱えて途方にくれる日でもあった。



「ほんとに戻れるの?」


「ええ、戻れますとも」


その現実から逃げるようにふらふらと外を歩いていると、今まで見たことのない店を見つけた。



看板には今にも消えそうな字で『時間屋』と書いてある。


興味を覚えて店に入ったのも、当然のことだった。



「このカレンダーに印をつけたら、その日まで戻れます」


そういって店主はところどころ虫食い穴の開いた古い8月だけのカレンダーを、僕にも見えるようにカウンターに置いた。



にわかには信じがたい話だ。



「ただし時間が戻るだけで、勝手に宿題が終わるわけではありませんので」

カレンダーを手に店を飛び出していこうとする僕の背中に、店主はそう声をかける。


聞こえていたのかいないのか、僕は手を振りながら外へと走って行った。


「またのご来店をお待ちしています」

意味ありげに店主は笑みを浮かべると、しまったばかりの扉をじっと見つめていた。


「ほんとに戻れるの?」


「ええ、戻れますとも」


店主はところどころ虫食い穴の開いた古い8月だけのカレンダーを、僕にも見えるようにカウンターに置いた。


同じ会話、同じ応対、そして同じ時間。


しかし、それが13回目になることを僕は知らない。






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