記憶 [小説]
「以上、連日お伝えしている少子化と人口減少のニュースでした。さて次のニュースは・・・」
そんなニュースを聞き流しながら、ぼくは子供の頃のことを思い出していた。
毎日友達とサッカーや野球を日が暮れるまでしていたように思う。
当時はまだ子供が多かったのだろうか。
ぼくは久しぶりに子供の頃のアルバムを引っ張り出して眺めていた。
ぼくは修学旅行最初の夜、皆で一晩中語り明かしたことを思い出した。
自分が密かに憧れていた女性がよりによって自分の親友と付き合っていることを初めて聞かされたのだった。
ぼくはその女性の名前を思い出そうとしたが、なぜかどうしても思い出せなかった。
初めての挫折の思い出。
辛い過去は、自己防衛本能から記憶が薄れやすいと聞いたことがある。
しかし、その記憶は同時に初めて本気で恋をした僕にとって大切な思い出でもあったのだが。
2025年、政府は人口の減少を食い止めるために極秘のプロジェクトを推進していた。
もはや一刻の猶予も許されない状態に直面した政府は、それまでのクローン技術に、最新の加速成長技術を組み合わせたのだ。
クローン技術で大量に生まれた子供たちを、悠長に育てている時間はもう無い。
すぐにでも労働人口として寄与できるような人口対策が必要だった。
厳密に閉鎖された特殊環境で通常の10倍の速度で成長する子供たちと、彼らに用意された「作られた記憶」。
戸籍や住民票を完璧に揃えて社会に送り出すことで、人口問題は急速に解消していった。
「作られた記憶」
「ほぼ完璧な記憶」
「ほぼ完璧な思い出」
まあ、少々の記憶の欠落は認められたが、大きな問題ではなかった・・・
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