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妖女 [小説]


 

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夜明け前、夜が黒色の世間を脱ぐ頃、渓谷の沼に青年は佇む。



細波が枝の闇に初期化された露色の気配を反射する。


振り向くと、弾力を包んだ草上に湿気の軌跡が足元まで繋がり。



蓮は、底なしの混濁に蕾を広げ浮いていた。


妖女の足許。


瞳孔が、さまよいながら面前の花弁に拡張する。

関数的曲線、数的企図。



輪郭が額の内部をも焼きながら騒ぐ。


無機を装う生体の花弁は、青年を引き入れる。



落ちる。


抗う。


傾れる。



息詰まる。


青年は瞼で思考を伏せ、世にしがみつく。


息を戻す。


洞窟の向こうに在ったのは「妖」。


妖女の身体が纏う生ぬるいゼラチンの球根に共生する精気だった。


青年は深く深く

後悔を感じた。






タグ:妖女 青年 小説
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