遺産 [小説]
この老人、裸一貫で、会社を興し世界に名だたる資産家になった傑人だ。
その老人は今ある悩みを抱えていた。
もうこの先長くない老人は、莫大な財産をどうしようか悩んでいたのだ。
彼の一粒種の息子は、3年前に事故で亡くしていた。
息子には3人の子供を残していたので、財産はその3人の孫に渡すことになる。
しかし、孫は甘やかされて育ったのか、あまりできは良くない。
このまま財産を渡してもすぐになくなってしまうに違いない。
そう考えた老人は、三人の孫を呼び出した。
「今日はお前達に、経営の極意を教える」
話し終えた後、老人は財産の配分を話した。
長男には会社を、次男には家と財産を、三男には高価な美術品を与えた。
全てをやり終えた老人は、未練がなくなったのだろうすぐにこの世から旅立った。
その後の話をしよう。
会社を受け継いだ長男は、祖父の言う通り経営したが、実力も経験も無い長男はすぐに社長の座から下ろされてしまった。
次男は、財産を使い会社を興した。
しかし、祖父の時代とは情勢は違うのだ。
祖父の猿真似のような経営ではうまくいくはずも無く、会社を潰し、財産のほとんどを失ってしまった。
最後は三男だ。
彼は自分に経営の才能が無いことを自覚していた。
なので彼は、祖父の経営の極意を本にして出版することにしたのだ。
かの有名な経営者の孫が書いたということで、出版社への売り込みも簡単だった。
それに、波乱万丈な祖父の体験記だ、面白くないはずは無い。
本は売れ、そのお金を使い祖父の残した美術品を飾り、美術館を経営し成功した。
そう、祖父の残した経営の極意とは、技術では無い。
人より新しいことをする人生そのものことだったのだ。
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