バー [小説]
BAR 「LOST」
すすけた金色のプレートにそう書かれている。
覗くだけでも覗いてみるか。
ぐっと息を吸い、思い切ってノックをしてみた。
すると、黒いベストを着たバーテンがすっと歩み寄ってきた。
「どなたか、会員様からのご紹介でしょうか?」
「いえ、ちょっと外からこちらの窓を見て、気になったもので」
「基本的に、一見で新規のお客様はお断りしておりますが」
男は私の風体をチラリと見て続けた。
「お客様が、私どもの条件に該当されるようでしたら、
特別に入店していただいても構いません」
「じょ、条件と言いますと?」
「当店では“何かを失われた方”のみ入店して頂いております」
男は小声になり私の耳元で説明を続けた。
「あちらのカウンター1番奥の男性は、
長年連れ添われた奥様を亡くされました。
真中のご夫婦は、可愛がっていた愛犬を亡くされたそうです。
手前の男性は、交通事故で片足を」
私は突拍子も無い話を聞かされ、
思わず言葉を失った。
「条件を満たされたようですね。どうぞこちらへ」
男は呆然とする私の背中にそっと手を添え、
カウンターの空いている席へと案内した。
2015-05-30 01:32
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