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 BAR 「LOST」



すすけた金色のプレートにそう書かれている。



覗くだけでも覗いてみるか。




ぐっと息を吸い、思い切ってノックをしてみた。



すると、黒いベストを着たバーテンがすっと歩み寄ってきた。


「どなたか、会員様からのご紹介でしょうか?」





「いえ、ちょっと外からこちらの窓を見て、気になったもので」




「基本的に、一見で新規のお客様はお断りしておりますが」



男は私の風体をチラリと見て続けた。



「お客様が、私どもの条件に該当されるようでしたら、

特別に入店していただいても構いません」




「じょ、条件と言いますと?」




「当店では“何かを失われた方”のみ入店して頂いております」



男は小声になり私の耳元で説明を続けた。




「あちらのカウンター1番奥の男性は、

長年連れ添われた奥様を亡くされました。


真中のご夫婦は、可愛がっていた愛犬を亡くされたそうです。



手前の男性は、交通事故で片足を」



私は突拍子も無い話を聞かされ、

思わず言葉を失った。



「条件を満たされたようですね。どうぞこちらへ」



男は呆然とする私の背中にそっと手を添え、

カウンターの空いている席へと案内した。






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