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胸の痛み [小説]


 

 

 
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朝目覚めると胸元にぽっかりと穴があいていた。



どうしてかはわからないけれど、左胸の丁度心臓のあたりがからっぽで、



ためしに手をいれてみると自分の背中まで抜けていた。




悲しい気がしたけれど、胸が痛むことはなかった。


とにかく会社へ行くためパジャマからスーツに着替える。




服を着ると穴は見えないし、あることもわからなくなった。



一日、会社で過ごしている間も穴はあいたままだった。



帰り道は普段より10分長くかかる道を選び、胸の穴のことを考えた。





帰りも誰かと居た気がするが、胸が静かで思い出せない。


私は誰と居たのだろう。


昨日まではドキドキする度、幸せだったように思う。



胸はぽっかり空いている。


心がなくなってしまったみたいだった。




夜、眠る前にみてもやはり空洞のままだった。




ここにはきっとあの人がいたのだ。



ああ、それがきっと正しい。



今の私では、この穴が埋まるなんて考え付かないけれど、

またドキドキが訪れたとき、この胸はいっぱいになるのだろう。





そう思うけれど、あたたかい涙がこの空洞をほんの少し埋めてくれるようだったから、静かに静かに頬を濡らした。






タグ: 痛み 小説
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