カメレオン [小説]
僕の腕とカルテを交互に睨みながら、お医者さんは「うーむ」と唸った。
「なんとかなりますか、先生」僕は体中のそれを指す。
「今まではもう少し小さかったのに、この訳の分からない斑模様が、日に日に大きくなっているんです。」
お医者さんは、黙って首を横に振るだけだった。
僕はがっかりしながら病院を出て、コンビニへ行こうと とぼとぼ歩いた。
ペットボトルのお茶を買って、お金を渡す時の店員の顔。まるで、化け物を見るようだった。
コンビニに限ったことではない。
どこへ行っても、ジロジロ見られて落ち着かないのだ。
「僕は、ひっそりと生きていたいだけなのに」
呟いている途中に、ふと 僕の斑模様に、なにか見覚えがあるような気がしてきた。
そう、あれは確か街中の広場の、タイルの床だ。
人通りが少ない、あの広場の。
そこに行けば、なにか分かるかもしれない。
僕は広場へ急いだ。
人々の嫌悪の眼差しも気にならないくらいに、無我夢中で走った。
あともうすこし、すぐそこまで見えているというところで、ドンッと強い衝撃、宙をさまよう僕の体。
あんまり夢中だったから、車に轢かれたようだ。
地面に叩きつけられ、あまりの痛みにもがく僕。
奇しくも、広場の斑模様のタイルの上。
血は出ていないようだが、体が痛くてたまらない。
「だ、だれか」僕は、慌てて降りてきた車の運転手に助けを求めるが、運転手は不思議そうな顔をして首を傾げるばかりである。
「おかしいなあ、なにかぶつかったと思ったのに」
斑模様のタイルと完全に同化した僕を残して、車は走り抜けて行くのだった。
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