物書きの恋 [小説]
彼はいつも昼近くなってベッドから出る。
急いで朝昼兼用の食事を済ませ、午後から近くのスポーツジムで汗を流す。
帰りにはスーパーに寄って食料の買出しをし、夜は読書したり小説を書いたりして過ごす。
これが彼の一日だ。
スーパーで買い物をする時、彼が通るレジは決まっている。
そこでは感じの良い女性が対応してくれるからだ。
彼はいつしか年上の彼女に引かれていった。
彼女と言葉を交わしたことはなかったが、彼女の姿を見た日は心が和んだ。
彼は、自分が書いた小説を彼女に読んでもらいたかった。
その日彼は、思い切って尋ねた。
「自分は小説を書いています。あなたの名前を使わせて欲しいんです」
彼女は一瞬怪訝な顔をしたが、やがて「美咲です」と答えた。
「母と同じ名前です!」
「それじゃ、きっと素敵な方なのね」
その夜、彼は早速机に向かって書き始めた。
スラスラとペンが進んだ。
作品が出来上がった日、それを彼女に手渡して早々に去った。
翌日彼は、恐る恐るレジの前に進んだ。
「とても素敵でした。私の名前を使って下さって嬉しいわ」
―――ヤッタゼ!
彼は胸の中で叫んだ。
彼は、メールアドレスを書いた紙切れをポケットから出して、素早く彼女の手に握らせた。
彼は、小説を書くのを止めて、彼女とのメール交換にのめり込んだ。
2015-06-21 10:35
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