神と懺悔 [小説]
私は手にしていた分厚い革表紙の本を棚に戻した。
私はどこまでも続く本棚の間の通路を歩く。
人が二人通れるくらいの幅のそれは、時に左に、右に曲がりながら、
またある時は他の通路と交わりながらつづく。
平面だけではない。
所々にある階段が、書架の迷宮に縦の広がりをあたえている。
私はずっとここにいる。
今まで誰ともあったことはないし、そもそも誰もいないのかもしれない。
私はただ、そこにある本を読んだ。
誰が書いたかも分からない妖精や竜の出てくるおとぎ話、
宇宙の真理を探求した哲学者の記した古書、
神を言語で表そうとした詩人の記した黒い背表紙の本、
私はただ読んだ。
私の中にはあらゆる知識があった。
読めば読むほど、それは際限なく膨らんでゆく。
いつか私は、全てを知るのだろうか。
私はずっとここで一人。
全てを知るまで、ここを出ることはないのだろう。
あらゆる知識をもつ存在。
人はそれを神と呼ぶ。
全てを知ってしまえば私はもう人ではいられないのだろうか。
神などとはおこがましい。
どれだけ本を読もうとも、
どれだけの真理を知ろうとも、
この頬を伝う涙の意味すら分からないのに。
2015-06-26 04:32
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