ヒーロー [小説]
大人になったら絶対、正義のヒーローになる。
テレビのヒーロー番組に影響されて、僕は、小学五年の時に心に誓った。
あれから十年が過ぎ、今、ヒーローどころか職にさえ就いていない情けない人間に成長している。
毎週出る求人誌を手に、横になりながら溜め息をつく。
なんてさえない日々なんだ、と求人誌の続きに目を通した。
その時、めくる指が止まった。
“仲間と夢を一緒に叶えませんか?”
よくある広告のコピーに気を止めたわけじゃなく、その文字の続きに目が奪われていた。
“ヒーロー募集”
馬鹿げたことを書いている。
普通の人間ならそう思うに違いないが、俺には、俺を求めてるように感じ、迷うことなく先方に電話をして、面接のアポを取り付けた。
二日後、指定されたコンビニの前に着き、こんなところで待ち合わせなんて。
と思っていたら、後方のコンビニがにわかにざわめき立ち、数人の客が悲鳴を上げて店内から飛び出して来た。
何事かと振り返ると、黒いキャップを深くかぶり、サングラスにマスク、手にはなにやらナイフのような物がキラリ。
「まさか、強盗?」
俺はとっさに、人混みに紛れて逃げようとしたその時だった。
誰かが背後から俺に囁やいた。
「初の指令です。コンビニ強盗と戦ってください。」
俺はすぐ振り返ったが、そこには誰も居なかった。
「ん?何だ?」
奇妙な違和感に、俺はコンビニのガラスに映る自分の姿を見ると、まるで何とかレンジャーのような、俺の憧れていたヒーローの姿になっていた。
その姿に驚きはあったものの、ノリやすい性格の俺は、よ~し!俺はコンビニに勢いよく入って行った。
どうなったのか・・・
気が付くと俺の姿は元に戻っていて、犯人は警察に捕まっていて、俺は、まるで夢を見ている気分だった。
「お疲れ様でした、素晴らしい活躍でしたね。文句なしに採用決定です。はい、今回の分のお給料です。」
と、女性に封筒を渡された。
一体どうなってんだ?
「そんな顔しないで、君が望んだヒーローじゃないですか。仲間のみんなは歓迎していますよ。ほら。」
その女性の後ろには、キラっと真っ白に輝く前歯を見せる、笑顔の六人の男女が立っていた。
そして、俺に眩しい笑顔を浴びせた。
「ヒーロー伝説クラブへようこそ!」
「で、あなたのヒーロー名は何にします?」
・・・・って聞かれてもさぁ。
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