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木箱 [小説]

 

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木箱の中に何かが入っている。


紙には、『ご自由にお取りください』と書かれている。



中を何気なく見てみると大量のお札が一枚一枚無造作に入っている。



一万円札がとくに多い。


俺は一瞬募金箱と間違えそうになった。



しかし、紙にはご自由に・・・と書いてある。


借金苦で人生が終わりかけの俺にとってこれはチャンスだ。

ゆっくりと周囲を見渡し、おそるおそる俺は木箱に手を伸ばした。

別に悪いことをしているつもりではないのに罪悪感が迫ってくる。



「やっぱり、やめようかな?これは何かの罠かも知れない」


俺の心の中で天使がささやく。


そう悩んでいる間に小学生の男の子が嬉しそうに木箱の中身を全部持って行った。


タグ:小説 木箱

デスノート [小説]

 

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本を買った。


しかしそれはとても本と呼べたものではなかった。


タイトルは書いていないし中身もすべて白紙である。


「なんだこれは」

真っ黒な表紙に興味を持ち衝動買いした自分を責めた。


そんな本を恨めしく思いながら延々と続く白紙を無意識にめくっていると、最後のページにわずかたった一行、とても鮮やかな黒いインクでこう記してあった。



「この本は暗い空間でお読みください」



「そうか、蛍光インクか」



僕の頭の中で軽い電流が走った。


そうだ。

文字の書いていない本などないのだ。

その文字を特殊な方法で印字して、暗闇の中で光るようにしてあるんだな。


なるほど、千五百円も出して損するところだった。


読まずに捨てるところだった。


僕は気付いた自分を褒めた。


早速その夜、僕は厚いカーテンを閉めて蛍光灯をつけずにその本を開いてみた。



とてもどきどきした。


その本を開いた感触は確かにあった。


しかしなにかがおかしい。


僕は天井に向かって仰向けに寝ている。


本はその上にある。


つまり何が言いたいかというと、僕の背中には薄い布団一枚しかないはずだ。


僕の背中に何かが触れている。



得体の知れない黒いものが。


ビー玉 [小説]

 

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ラムネの瓶に入っているビー玉を集めるのが大好きだった。

あれから15年経ち、集めていたビー玉も未だ木箱にきちんと整列している。

最近ではラムネを売っているお店が減ったり、ビー玉が取れない仕組みになっていたりしていて胸が痛い。

その度に集めたビー玉を部屋一面に散りばめ、大の字に寝転ぶ。

太陽の光が屈折してちょっとしたプラネタリウムになる。


同じように見えるビー玉だけど、気泡の大きさや無数の水色が散らばっていて何度見ても癒される。

同時に自分の中にくぐもっている物がゆっくりと溶けていく。


「ねぇちゃん、これやるよ。集めてるだろ?それと・・・幸せになれよ。」



「うん・・・。ありがとう。」



いつから集めていたのか10を越えるビー玉が透明な袋の中で喜びの輝きを放っていた。

そう、私は明日結婚をしてこの家を出る。


その上相手の仕事の都合で海外へ行く事が決まっていた。


弟は私が、ぎりぎりまで海外へ行くことを告げなかった事を根に持ちここ3日ばかり口を利いてくれなかった。


私はそれが唯一の心残りで、どう仲直りするかタイミングを計っていたところに突然の祝福。


「いつの間にか抜かされちゃった。」


弟がくれた宝物を抱きしめながら、私は声を出して泣いた。


キューピー [小説]

 

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久しぶりに仕事の依頼があった。

ケチャップ大佐からの依頼内容は以下のとおりだ。

不思議な神出鬼没のキューピーと呼ばれるベビーがいます。


このベビーは何ゆえ「~さん」付けで呼ばれるのか?

そしてマヨネーズとの因果関係について調査をお願いします。

この世の者でないことは確かです・・・

私はケチャップ大佐の情報を確かめる為、いつものように独自のデータベースを利用して調べた。

その結果、残念な事にキューピーはもうベビーでは無く、ベビーの皮をかぶった腐れ外道一号だったのだ・・・

そもそも、キューピーが誕生したのが西暦1925年らしく、すでに90歳近くにもなる。

ゆえに、「~さん」として呼ばれるのも納得できる。

私はキューピーと直接対決する為、異常にマヨネーズ臭のする家に不法進入し、色々物色していると、キューピーは姿をあらわした。

キューピーは自分の家のように、迷う事無く冷蔵庫を物色し始め、マヨネーズの袋にせっせと自分のロゴマークの付いたスタンプを押している・・・

どうやら私の気配に気付いていない。

私は用意していたショッピングカートに乗ったまま、背後からキューピーの頭部をインド産のゴボウで殴打した。

その瞬間に「ブリュッ」という心地良い音と共に黄ばんだ体液を撒き散らしながら崩れ果てていった・・・


私は歓喜のあまり、持っていたインド産のゴボウを噛み砕き

「ファッキン・アス・フォール!」とレクイエムをささげ、その場を後にした。


完全犯罪 [小説]

 

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銀行強盗が発生した。


その男は顔にマスクもせず、堂々と防犯カメラに顔を晒しながら強盗を働いた。


当然の事ながら、すぐさま似顔絵が作られ日本各地の交番に出回った。


誰もがすぐに捕まるであろう、と考えていた。



「ふう・・・」
 


あるアパートの一室。

傍に大量の金を詰め込んだままのカバンを置きながら、男はため息を憑いて、テレビをぼんやりと眺める。

映し出されているのは自分の過去の顔、銀行強盗を働いた人物の顔。

ニュースではもうひっきりなしで流れていた。

「ふん。まあこう流れているとかえって好都合だ。人々には嫌でも『この顔』がインプットしてくれるからな」

そう呟きながら、テーブルに置かれていた手鏡を手に取り、自分の顔を観察して見る。
 

映し出されているのは、テレビで流れている顔とは全く別人の物。


しかし銀行強盗を働いた男の顔でもある。

今は。


「まあ、警察も俺の事は捕まえられないだろう。生まれ持った特殊な能力。自分の顔を好きな様に変化させる事が出来る能力。

これを知られない限り、俺は絶対に捕まらない」
 

手鏡を置き、男はチャンネルを変えて、何処か強盗について以外のニュースがやっていないかを探す。

そしてあるチャンネルで止めた。

そのチャンネルでは、国会中継を行っていた。
 

男はしばらくそれを、暇つぶしにぼんやりと眺めていたが、やがてある事を閃いた。

それは男にとっては面白いアイデアであった。


また銀行強盗が発生した。
 

その銀行強盗の犯人は、マスクすら付けておらず、防犯カメラにも銀行員にもばっちりと顔を見られていた。

そしてその似顔絵がすぐさま作られ、日本各地の交番に貼り出された。


そしてマスメディアもその犯人の顔を伝えた。

事細かく。
 

だが、その似顔絵を見た人々は決まって、面白さと奇妙さが混じった表情になる。

何故なら、その作られた似顔絵は、どう見ても現職の総理大臣と全く同じ顔であるからだ。


苦情 [小説]

 

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くじょうがきました


タバコのシーンがきえました


くじょうがきました


だんじょのシーンがきえました


くじょうがきました


ぼうりょくのシーンがきえました


くじょうがきました


すべてのシーンがきえました


あとにのこったのは、なにもなく

なにもかんじないひとがうまれました


なにもしらないひとがうまれました


なにもかんがえないひとがうまれました


幸せなヒトたちがあふれる


差別、区別、分別さえ無い



ステキな世の中に変わりました


タグ:苦情 小説

プロローグ [小説]

 

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少しだけ話を聞いてほしい。


本当に少しでいい。



いわゆるプロローグの部分だけでいい。


落語で言うならマクラの部分だけ。


僕は今からカノジョの話をしたいと思う。


それはガールフレンドの意味の彼女、ではなくてSheの意味のカノジョの話。


だってカノジョはまだ僕のガールフレンドではないんだ。


でも少し話をしたい。


そんなカノジョの話を聞いてほしい。


本当に少しだけ、つまみの部分だけだ。


全部を話すにはあまりにも長くて、あまりにも恥ずかしくて、でもってあまりにも退屈でアクビが出てしまうから。

カノジョのあの涙は、誰のせいでもなくて僕の話のせいにしたいんだ。

退屈で出たアクビのせいで涙が出たのだと思いたいんだ。


それでは少し、話をしよう。


僕はカノジョに、恋をした。


記憶 [小説]

 

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「以上、連日お伝えしている少子化と人口減少のニュースでした。さて次のニュースは・・・」

そんなニュースを聞き流しながら、ぼくは子供の頃のことを思い出していた。

毎日友達とサッカーや野球を日が暮れるまでしていたように思う。


当時はまだ子供が多かったのだろうか。


ぼくは久しぶりに子供の頃のアルバムを引っ張り出して眺めていた。


ぼくは修学旅行最初の夜、皆で一晩中語り明かしたことを思い出した。

自分が密かに憧れていた女性がよりによって自分の親友と付き合っていることを初めて聞かされたのだった。


ぼくはその女性の名前を思い出そうとしたが、なぜかどうしても思い出せなかった。


初めての挫折の思い出。


辛い過去は、自己防衛本能から記憶が薄れやすいと聞いたことがある。



しかし、その記憶は同時に初めて本気で恋をした僕にとって大切な思い出でもあったのだが。

2025年、政府は人口の減少を食い止めるために極秘のプロジェクトを推進していた。


もはや一刻の猶予も許されない状態に直面した政府は、それまでのクローン技術に、最新の加速成長技術を組み合わせたのだ。


クローン技術で大量に生まれた子供たちを、悠長に育てている時間はもう無い。


すぐにでも労働人口として寄与できるような人口対策が必要だった。


厳密に閉鎖された特殊環境で通常の10倍の速度で成長する子供たちと、彼らに用意された「作られた記憶」。


戸籍や住民票を完璧に揃えて社会に送り出すことで、人口問題は急速に解消していった。


「作られた記憶」

「ほぼ完璧な記憶」

「ほぼ完璧な思い出」

まあ、少々の記憶の欠落は認められたが、大きな問題ではなかった・・・


BIGBANG [小説]

 

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無から有をつくるにはどうしたらいいか。
 

答えは、0を+1と-1にわけることだ。
 


つまり、この世界に存在するあらゆるものが、正と負の正反対の方向性をもっているのだ。
 

時間も例外ではない。


我々の生活している正の時間軸とは正反対の方向に流れる負の時間軸というものが存在するのだ。

負の時間軸は、ビッグバンの時、我々の正の時間軸と正反対の方向に発生して、そのまま負の時間軸の宇宙をつくっている。



ビッグバンの向こう側には、負の時間軸の宇宙が存在するのだ。


「あなたとはもうやってられない。別れる」
 

おれは唐突に彼女に別れを告げられ、沈みこんでしまった。


「落ち込むのはまだ早い。負の時間軸の彼女とやり直せばいいんだ」
 

おれは負の時間軸の宇宙にたどりつくために、過去の方向に向かって時間船を飛ばすことにした。


うまくいけば、負の時間軸の宇宙にたどり着き、負の時間軸の彼女に出会えるはずだ。
 

どかああああん。
 

ことはそう簡単にはいかなかった。
 

負の時間軸に到達した時間船は、時間の対消滅を起こして消えてしまったのだ。


タグ:BIGBANG 小説

逆説論 [小説]

 

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昔、子供の頃、

「人間はどんどん若くなってきているものだ」

と思っていた。


つまり、大人は本当は子どもで、 子どもが大人なのだ。


1年ずつ年を重ねるのではなく、 1年ずつ若返っていく。


でも脳は子どもから大人に成長する。

大人は偉そうに子どもを指導したり、しつけたり するが、子どもは本当はそんなことは全部 わかっていて、大人だから黙っているだけなのだ。

大人の脳は未熟で、それが理解できないから、 子どもは自分よりも知っていることが少ないと 思っている。

子どものほうが物事をよくわかっているが、 決して大人を指導したりしない。

今思えば、子どもがもう少し大人をきちんと 指導しておけば、 こんな世の中にはならなっかったのかもしれない。

これは子どもが子どものふりをしていた責任なのだ。

もう少しうまく指導できれば、 受験戦争もなかっただろうし、 学校ももう少しましだったに違いない。


大人になった今、 子どもを理不尽な理由で怒り飛ばす。



もしかしたら、

子どもは心の中で

冷ややかに笑っているのかもしれない。


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