ナンパ [小説]
今日はとってもいい天気。
朝、はやくから釣りに出かけたよ。
あまり、魚は釣れなくてぼくはしょんぼり。
魚が釣れないなら、女の子を釣ろうと歓楽街へ。
何時間も電車を乗り継いで、ようやく到着。
歓楽街は釣れそうな女の子が、「街という空間」をたくさん泳いでいる。
その街で時間をかけて、何度も女の子の釣りをしていたのだが、みんなかかりそうでいて、すれなく逃げていく。
なかには、「気持ち悪い」とか、「一人であそんでろ!」とか、暴言を吐いて目の前から消えていく。
またまたしょんぼり。
もうやめようかと思ってたら、個室ビデオから女の子が出てきた。
顔をみたら、驚いた。
きれいな子だ。
声をかけたら、すんなりうなずいてくれて、ぼくは有頂天!
女の子の釣りにようやく成功したんだ。
長い長い戦いだった。
ぼくは幸福な気持ちでおなかいっぱいになった。
でも、よく見たら女装した男だった。
な~んだ。
さえないにもほどがあるってもんだ。
人ゴミの中に逃そうと思った。
その時、彼女がぼくに言った。
「あら・・・・、こんなところであなたに釣られるなんて」
そんな声をかけてくれるところから推測すると、おそらく知り合いだ。
よくよく見たら、ぼくの同級生で男友達だ。
あわてて、ぼくは歓楽街を逃げた。
女の子を釣るつもりで、男の子に釣られるなんて。
それも同級生。
世の中は狭いなあ。
家に帰ってから、ぼくは思い出して
ちょっとだけ、笑ってしまったよ。
翁長知事は左巻き [小説]
昼休み、机に突っ伏してうたた寝していると、後ろから第一秘書の笑い声がした。
「なんだ、君たち。頭のつむじが逆向きになっているぞ。」
そんな、笑うほどのことじゃないだろう。
急に起こされて不機嫌なまま頭を上げると、となりで寝ていた同僚の秘書もぼんやりとした顔をして起きあがってくる。
どうやら、俺のつむじは右巻き、同僚のつむじが左巻き、と言うことらしい。
俺達の機嫌などお構いなしに、第一秘書はみんなのつむじの向きを数えはじめた。
うちの事務所は10人いるが、ちょうど左右半々であることが分かったところで、第一秘書は新聞を読んでいた知事に声をかけた。
「知事、知事の頭のつむじは右巻きですか?左巻きですか?」
知事は、沖縄タイムズを下ろして少し考え、答えた。
「えーと、確か左巻きにしたはずだけど・・・。」
何気なく頭に伸ばした第一秘書の手の下で、わずかに知事の頭髪がズレたような気がして、俺達は凍りついた。
藤田嗣治先生 [小説]
我輩が料理をする際は、いわゆる料理本を参考にする。
これがタマにカチンとくることがある。
よく「塩、コショウ少々」と書いてある。
我輩は、「いったい"少々"とは何グラムなのだ!」と声を大にして料理本にツッコんでしまう。
ついでに料理本をひっくり返して表紙の料理研究家の名前と顔写真をしっかりと見て
「オマエかー!オマエがこんなアバウトな少々などという表現をして、民衆を混乱におとしめているのだなぁー!」っとツッコんでしまう。
他にもこんな大雑把な表現に怒りを憶えるヒトは少なくないだろう。
そんないい加減な加減で美味しい料理ができるわけがないっ。
いろいろ調べたところ"少々"とは「親指と人差し指で軽くつまんだぐらい」とあった。
試しにつまんで計量器に落としたところ、針はピクリとも動かなかった。
これは数字で言うところの「0(ゼロ)」である。
文学でいうところの「虚無」である。
SF小説でいうところの「宇宙の果て」もしくは「虚数時間」か。
料理で宇宙の神秘や日の「禅」や「弾」に出会うとは思わなかった。
同じ表現でもまだ「スプーン一杯」とか「スプーン半分」の方がいい。
手持ちの標準的なシュガースプーン一杯分の重さをあらかじめ計量器で計っておけばいいのだから。
料理本に「塩スプーン一杯」と記述があれば「塩なになにグラム」と変換すればいいだけのことだからだ。
もっともなぜ料理研究家が、こんなにいちいち変換しなければならない表現をするのかは永遠の謎だが。
しかし、これがもし宇宙規模、地球規模になると破滅的効果をもたらすことになる。
この前ニュースで見た、県だか市だか町だかをあげての料理イベントがそれだ。
ふだんは"少々"の表現で済まされている些細なはずの行動が、目をおおいたくなる事態に豹変してしまっていた。
巨大なナベを使う芋煮会だか、巨大なナベを使うジャガイモの煮っ転がし会だかでは、塩をバケツでブチまいているではないか。
あれのどこが少々なのだ!あれは何キログラムだろうが!あれは何十キログラムだろうが!
「バケツ一杯」とか「バケツ半分」を計量器で計っているのか!
絶対に計ってないだろう!
ニュースではそのナベを建設用クレーン車がきれいな金属の巨大なシャモジで豪快にかき混ぜている光景をうつしていた。
なんだかんだで料理が完成した。
本当か?
みんなで食べる。
家族で食べる。
お父さんも食べる。
お母さんも食べる。
円らな瞳の可愛い赤ちゃんの口元に、お母さんがやわらかいジャガイモなどを運ぶ。
その純粋で汚れを知らない赤ちゃんがモグモグ食べる。
みんなみんな「おいしいおいしい」と言って笑顔で食べる。
これを幸福と言う。
流石だ。
あんなアバウトな状況でおいしい料理を作ってしまうなんて流石料理人は違う。
我輩は脱帽した。
旅立ち [小説]
さあ、旅に出よう。
この小さな籠の中はあまりにも窮屈で、退屈だから。
外の世界へと、旅立ってみたいから。
小鳥は一羽、飛び出した。
さあ、旅に出よう。
平凡な毎日にはもう、飽きたから。
平穏の中に隠れた、夢を見てみたいから。
小鳥は一羽、飛び出した。
ああ、旅に出たい。
不自由で不安定な、この籠の中で一羽。
こんな生活、もう嫌だ。
小鳥は一羽、飛び出せずにいた。
旅立ちたい、そう願うだけでは叶わない。
飛び出した二羽の小鳥たちは持っていた、ある物がないから。
それは、実行力。
いくら願っても、実行する力がなければ、大きな気持ちがなければ、飛び出すことは出来ない。
さあ、旅に出よう。
小鳥がまた一羽、飛び出した。
ネガティブな旅立ち [小説]
旅立つ人、見送る人
どっちがつらい、どっちが痛い?
僕には進む強さも、待つ優しさも無く
敷かれた白線の手前で持ち上げた足を、
踏み込む事も戻す事も出来ず
「行動を起こした先の自分」を語っては、今の姿込みで苛立ちに舌を打つ
「切符が発行されなければ、鞄に詰めた白紙と、筆箱の中にしっかり入れてある鉛筆で、行き先を明確に記せばいいじゃないか」
当たり前のように、遙か先に立つ友人は言う
行き先が、分からないんだ
不機嫌に訴えてみたが、それこそ当然のように友人は告げる
「教科書に書いてあっただろう」
生き方、考え方は全部、教科書に載っていた。
その通りに生きれば、それは素晴らしいと褒められ
それに反すれば、あいつはダメだと罵られる
確かに僕も習った
でも、僕は当時から出来が悪く、物覚えも悪かったから、教科書の内容を殆ど覚えていなかった
せんせいの教え方が悪かったんだよ
投げやりに放った言葉に「人のせいにするなよ」と、恐らくその友人ではなくても
誰でも言いそうな言葉が返ってきた
そうだね
僕の声は友人には届かなかった
友人はすでに「前」を向き、背筋を伸ばして歩き出していたから
切符の話で、僕が「そうだね」と言っていたら、友人はなんと答えただろうか
未だに宙をさまようつま先
その話も込みで、もう一度、舌を打った
エコロジー [小説]
ある研究者は思いついた。
絶対に世の中にゴミが散乱せず、世界中がクリーンでいられる方法を。
男はそれを本に著すことにした。
発売前から大々的に宣伝をし、テレビでもその本の大体の内容を説明した。
日本では、幾らか名のある研究者であったので、多くの人が注目をした。
最近の若者の間では、エコに関する関心が高まっているようで、
テレビを見た視聴者の若いのから、幾らか反響の電話があったし、書店には予約が入りはじめていた。
街中の広告には、「日本から世界へひろめるエコ」といった具合の安っぽい文句がでかでかとあふれている。
数日後、本が発売となった。
街をあるけば、大概の人が同じ本を読んでいる。
電車の中では、本を持った全く違う年齢層の人々が議論を熱く繰り広げている。
いままで見られなかった光景。
日本人どうしの関わり合いを増やす手伝いとなった。
ある政治家は「本が大量に売れ経済が幾らか潤った。」と言った。
例の著者は高級車を乗り回し、大きな家を建てた。
エコ御殿ともいわれた。
なにもかもが日本のなかで上手くいっていた。
アマゾンの密林にて。
「なぁ、最近、木の伐採量が多くないか。」
「なんでも、ニホンとかいう国で本が売れているらしい。」
現実はいつも遠い所にあるものだ。
紅葉と妻の死因 [小説]
桶屋 [小説]
風が吹けば桶屋が儲かるということわざがある。
あることが起こると、それと一切関係ないあることが起きるという例えだ。
彼はそれが例え話だと知りながも実際に風が吹くと、どのように桶屋が儲かるのかを知りたくなった。
まったく知りたがりな男である。
そこで、彼は桶屋に張り込み、風吹くのを待った。
2時間ほどしたころだろうか。
突然、大きな風が商店街のアーケードに吹き渡ったのだ。
風が吹くと同時に道端の新聞が飛ぶ。
それが中年サラリーマンの顔に付いて、自転車がよろける。
そして女にぶつかりそうになる。
女は驚き、自分のハンカチを放る。
それが水たまりの落ちる。
「何かを使って洗いたい」女が桶屋を見て言う。
「そういうことか。桶を使ってハンカチを洗うのか。」
と彼はやっと分かる。
泥にまみれたハンカチを彼は拾い、女に渡そうとする。
彼は向こうからきたトラックに気づかない。
町に金属の鈍い音が響く…。
桶屋に棺桶の注文が入ったのは、その翌日のことである。
幸せ [小説]
幸せ者が幸せ者なのは、彼がすでに幸せ者であるからで
不幸な人が不幸なのは、彼がすでに不幸だからだ。
その人が幸せになるかどうかは、生まれる前に決まっている。
少しだけ思い出してみてほしい。
この世に生まれる前に、長い列に並んだ覚えはないだろうか。
角の生えた人々から、黄色い球、あるいは青い球を受け取った記憶があるはずだ。
それが幸せだ。
あるいは、不幸。
一度もらってしまったが最後、返すことはできない。
少しだけ試してみてほしい。
胸郭の中から心臓を引っ張り出して、裏っかえしてみてくれないだろうか。
脈打つ筋肉の裏に星形の刺繍、あるいは月型の刺繍が見えるはずだ。
それが幸せだ。
あるいは、不幸。
一度縫い止められてしまったが最後、ほどくことはできない
私たちが幸せになるかどうかは、生まれる前に決まっている。
変えることはできない。
だけど、強がることはできる。
自分は幸せ者だ。幸せな運命の元に生まれついたんだ。
そんな風にうそぶいて、上機嫌に暮らすことが、いつだって。
最悪な結婚式 [小説]
ステンドグラスを通して、柔らかい陽の光がこぼれていた。
「……あなたは、健やかなるときも病めるときも変わらず、生涯この女性を妻とすることを誓いますか?」
「はい、誓います。」
「あなたはこの女性が少しそそっかしく、時にグラスなどを割ってしまうことがあったとしても、生涯この女性を妻とすることを誓いますか?」
「はい、誓います。」
「それが、たとえばあなたの大切な思い出の品だったとしても?」
「ええ、誓います。」
「あなたはこの女性がとても料理が下手で、毎日砂を噛むような味の食事を続けなくてはならないとしても、生涯この女性を妻とすることを誓いますか?」
「えっ?…はい、誓います。」
「あなたはこの女性の美しさが全て整形によるもので、偽りのマスクを通してしかこの女性をこれまで見ていなかったとしても、生涯この女性を妻とすることを誓いますか?」
「……はい、誓います。」
「あなたはすぐにこの女性の尻に敷かれ、全ての自由を奪われるだけの運命にあると分かっていても、なお生涯この女性を妻とすることを誓いますか?」
「……」
「あなたはこの女性があなたの財産にしか興味がなく、本当はあなたと結婚することなくその財産を手に入れることができればどんなにいいことかと思っていたとしても、生涯この女性を妻とすることを誓いますか?」
「………」
純白のドレスを着た新婦がベールの奥から小さな声で、しかしはっきりとささやいた。
「はい、誓います」